題材9 エコロジー系の題材-1

エコロジー系の題材

1 題材名 「牛乳パックのリサイクル」

2 目標
 牛乳パックに含まれている良質のパルプ材を取り出し、それを材料として装飾品をつくる。
 (対象 中学二年 (8時間)デ・工芸)

3 題材観
 私たちの毎日の生活の中から不断にゴミが生み出され、捨てられている。世は、まさに使い捨ての時代である。しかし、そのゴミとして捨てられているものの中に直接的、間接的に再利用が可能なものが沢山ある。その一つに牛乳パックがある。牛乳パック(清酒パック等もあるが)は、厚手のパルプ紙を薄いビニール面でサンドイッチしたものによって作られている。その芯材として使用されているパルプは、ビニールがついているために廃品回収の対象になってはいないが、きわめて良質なものと言われている。そこで、そのビニールを上手に取り除いて、紙資源(造形材料)として再利用してみようと考えたのである。
 再利用を思い付いてから、まず最初の困難点はビニール面をはがす技術であった。カッターのような鋭い刃物を利用して直接はがしてもよいが、かなり時間がかかり無駄も出る。色々と実験を重ねて、水で30分ほど煮詰めると紙に水が浸透し繊維がふやけて、きれいにビニールがはがれることに気が付いたわけである。その次は、水にふやけた紙をちぎって原パルプにもどす工程がある。これは、調理に使うミキサーが一番である。量さえ多すぎなければ、ミキサーが壊れることはない。適度に水を加えて一分ほど回転させれば、紙はドロドロの紙料の状態になる。それをバケツ等に入れて、あとは型に流し込んで乾燥させれば良いのである。すこしあら目の布を使って、紙漉きの用具を作って漉いてもよい。紙の繊維の質感の美しい手作りの紙を作ることができるのである。この紙を再生する作業工程は言わば、くず鉄を溶鉱炉に入れて溶かして再製品化することと同質の工程であり、体験させる教育的価値は今日的にきわめて大きいと考えられる。
 材料の牛乳パックは簡単に手に入るわけだが、題材化していくにはミキサーや鍋等の大物の用具類の準備は教師側でしなければならない。むろん、紙料をどのように造形材料として使用し、造形作品を生み出すかが重要な問題である。本題材では、薄いレリーフ的表現の壁飾りとしておくが、その他造形的可能性はきわめて大である。生徒が準備しなければならないものとしてハサミ、カッター、型づくりの材料としてボール紙(菓子箱の類でよい)やベニヤ板が必要である。
4 題材のイメ-ジ地図
(1) パッケージの材料とデザインのイメ-ジ
紙、ビニール、プラスチック、木、金属、アルミ、ガラス、安全性、清潔感、消耗品、宣伝性、訴求力、装飾性
(2) 資源再利用のイメ-ジ
廃品回収、不用物交換、リサイクルシヨップ、ゴミの日、ゴミ収集車、資源小国日本、資源開発の必要性、エネルギー問題、清酒瓶、ビール瓶
(3) 紙のイメ-ジ
和紙、西洋紙、わら紙、紙幣、塵紙、ボール紙、画用紙、障子紙、紙繊維、パルプ材、ノート、書物、紙工芸、手漉き和紙、こうぞ、みつまた、紙工芸、和紙人形
(4) 壁飾りとレリーフのイメ-ジ
民芸、土産もの、額縁、凹凸感、影の美しさ、壁面装飾本能、白壁、構成の原理(リズム、バランス、ハーモニー、テクスチャー)

5 指導過程(課題構成)
* I過程
課題1 菓子箱などのボール紙やベニヤ板などの切れ端を利用して、壁面装飾を目的に、レリーフ的構成作品(紙料を流し込む型)をつくる。(4時)
・大きさは、最大で八つ切り(B5版)程度にする。
・ボール紙を切って貼ったり、重ねたり、追って凹凸をつけてリズムを出したりして表現する。特に、光を当てた時に影が美しい感じになるように工夫する。
・それ自体で装飾的構成作品となるわけであるが、後に紙料を流し込む型にするために、周囲に紙料流出防止用の高さ一センチ位の紙を巡らし、箱のふた状のものをつくる。
・具象的な表現より、円や三角形、正方形等の抽象的な形の組み合わせや構成の美しさを表現することをねらいとする。
・紙工作に適した強力な接着剤を使用するようにする。
・純粋な構成作品ではなく、文字等を入れてメッセージを含んだ作品としてもよい。
* M過程
課題2 牛乳パックを集め、両面のビニールをはがし紙材を取り出し、ミキサーにかけて水に溶かし紙料をつくる。(1時)
・牛乳パックは一人5個位用意させておく。
・ビニールのはがし方は、直接法でもよいし、鍋ゆで法でもよい。
・バケツを4から5個用意し、そこに水を入れ紙を手でできるだけ細かくちぎって投げ込み、水で紙の繊維が水で柔らかくなるようにする。
・ミキサーの粉砕許容量に注意しながら紙の水溶液(紙料)をつくる。
・ミキサーはできるだけ大きなものを準備しておく。
・八つ切り大の作品には、1リットル牛乳パック三個もあれば充分である。
・紙の水溶液(紙料)は、季節にもよるがかなりの長い間保存できる。
* T過程
課題3 型に紙料を流し込んで、水分を抜き乾燥に入る。(1時)
・流し込んだ紙料の上に木綿等を乗せ板状のもので圧力をかける。すると、水分がしみ出てきて乾燥が促進される。
・日差しの強い5月から7月頃なら一日で乾燥して出来上る。(冬場は、乾燥条件が悪いので避けた方がよい。)
・流し込む時に、厚みのない物体なら紙の内部に封じ込めることができる。
名称未設定 1.jpg
課題4 乾燥が終ったなら、型を取り外し、細部の不必要部を除去し、展示し易いように裏にひもをつけるなどして仕上げをする。(1時)
・紙という材質をつくったわけであるので、着色しないで、その質感、その材質の色を大切にする作品とする。
* S過程
課題5 完成作品を鑑賞し、完成の喜びをかみしめさせると共に、全ての活動過程を振り返って感想文をまとめる。
・この題材は、全て終ってみないと理解できないものが多い。その意味から、最後に資源の再利用等の問題を跡付けるようにする。
6 本題材の指導のポイント
(1) 紙をつくり出すことから出発する、人間としての全体性を養う根源的な造形活動であるということ。
(2) 捨てられる運命にある牛乳パック等の物質を、創意工夫を働かすして再利用する文明批評的な意味のある造形である。
(3) 作品は、凹凸面のつくり方が造形条件であり、自由な発想が生かされ、多様な表現が可能である。
(4) 私たちの日常生活で、どれだけ多量の物質をむだに消費しているのか、深く考えさせたい。

(このテキストは環境という視点が重視されるようになった情勢を踏まえて、1986年に題材構想として書かれたものである。その後、総合的な学習の時間が設けられで、再生紙を作る体験学習として取り組まれることが多くなった。写真は、校長を務めたT小での5学年の例。私自身による中学校での実践例はない。)          



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