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題材15 管理職としての3つの実践

美術家教育学会通信 NO.34 ,1999年9月30日発行「Mail Box」コーナーに発表した「管理職としての3つの実践」に写真を加えました。

⒈ はじめに
 公立中学校に30年間(教頭5年)勤務し現在、小学校長2年目である。教諭の時代は、現代美術をよさを生かした創意ある美術教育を求めて、題材開発とその実践を研究テーマとしてきた。
 管理職と教諭とは役割が根本的に違う。教頭の期間で美術科を担当できたのは1年間のみであった。また、校長は法令のとおり所属職員の指導や監督はできるが、子供への直接的な授業は本務ではない。
 そこで、校長になって考えて経営方針により環境構成を重視することにした。校舎美化及び掲示活動の活性化と充実を目指し、自ら率先垂範し、もって図工・美術のよさを生かした学校づくりとしてきた。
 その他、図工科の授業にTTの立場で協力したり、教員養成実地指導や校内外の職員研修の講師として自論を展開し、図工・美術教育の振興に努めてきている。今回、本学会通信への寄稿の機会を与えていただき、管理職としての6年半の歩みの中から図工・美術の領域に位置付く実践を3つ報告したい。
⒉ 3つの実践
 ⑴ 「聖火台づくり」
ア はじめに
 新潟県では、7年前より学校の活性化を目指し、3年単位の「スクールプロジェクト事業」を展開している。学校規模に応じて予算が配当される。12学級で約100万円。その予
算をもとにした手作り備品として「聖火台づくり」に取り組んだ。

イ ねらい
 オリンピックの「聖火」、国体の「炬火」と同じ意味文脈にある「火」を体育祭・運動会で燃やし続けることにより年間で最大の学校行事、児童・生徒会行事の活性化を図る。ウ 制作のポイント
 バーナーは市販の中華料理用の強力なものを利用する。台の高さ250cm程度、ワイン
グラス型の鋼鉄製で5~6名の児童生徒で移動が可能な重さとする。予算は約20万円。設計し、施工は地元の鉄工所にお願いした。
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エ 考察
 これまで、松代中、板倉中そして現任校で3基の制作を担当した。
 燃料はプロパンガスで1日中燃やし続けて10kgのボンベがほぼ終わる。その費用は約5000円程度である。年に1回だけの使用のためにぜいたくな感もあるが、炎々と燃え続ける火の芸術の教育的、演出的、象徴的な意味作用は強力で感動そのものである。
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」 ⑵ 「校内ギャラリーの運営」
ア はじめに
 校舎内には作品展示にふさわしい壁面や空間が必ずあり、ギャラリーとしての活用が可能である。新指導要領でも、校内の適切な場所に作品を展示するなどして、平素の学校生活においてそれを鑑賞できるものとするとある。余裕教室の活用と相俟ってギャラリーの設置と実質ある運営が今日的課題である。
イ ねらい
 校長室前の廊下や玄関付近の壁面及び出窓部分を作品展示の校内ギャラリーとして活用し、情操教育、美術鑑賞学習の一助とする。
ウ 運営の方法
 ①子供の作品展
 ②職員や保護者の作品展
 ③地域の方々の個展やグループ展
 ④県内外の著名な作家の作品展
エ 考察
 板倉中と本校で設置してきた。板倉中では国際的な旅行家で写真の山崎慎治氏、七宝焼の山本正男氏、水墨画の笹川春艸氏、洋画の小関育也氏、そして私の個展も行なった。いずれも2週間以上の長期の展示で、子供にとって本物に触れる貴重な機会となった。
 本校では昨年の10月に設置し、鉄の彫刻の霜鳥健二氏の個展の実績がある。
t-02.jpg現在は6年の共同制作の立体作品を展示している。今後10月の文化祭に合わせて地域の方々の作品展を行なうように計画を進めている。
 地域の美術館や文化財などの積極的な利用もうたわれているが、ほとんどの学校で交通手段がネックとなっている。そのために校内に適切な鑑賞作品の展示できる美術館などに近似する場所をつくり出す必要がある。
 また、既に多くの学校での実例があるが、本校のような校内ギャラリーは運営の工夫で学校を開く有効な手立ての一つとなる。

⑶ MIE(Mascot In Education)の試み
ア はじめに
 私自身親となって、子育ての過程でぬいぐるみのウシやゴジラなどを買い与えた経験はある。その頃は、ぬいぐるみや玩具の意味作用や教育的な効果について真剣に考えることはなかった。昨年の文化祭のバザーに売りに出されたカエルのぬいぐるみを手に入れたことを契機に考えが進み、その類を沢山コレクトすることとなった。現在、私の校長室には大小さまざまな30体以上のぬいぐるみ及びキャラクター玩具が同居している。
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イ ねらい
 ことば遊びや連想をもとに、学校の教育目標などをマスコット化し、子供の心の居場所学び、遊び、癒しの一助とする。
ウ 試みの実際
 昨年度までの教育目標は「考える、助け合う、頑張り抜く」であった。まず最初の試みはカエルのぬいぐるみによる「カエル←→考える」の常識的意味設定であった。続いてゾウを手に入れて「助け合う←→助け合うゾウ」とこじつけてマスコットとした。その2つをギャラリーに展示したら子供たちに人気抜群。それは子供たちと私との懸橋となり、そこは、子供たちの新しい遊び場所となった。 その後、新年を迎え干支のウサギのぬいぐるみと「二兎を追わず」「うさぎ耳」「ウサギの登り坂」や「ウサギとカメ」などの諺や昔話に対応させて展示した。「頑張り抜く」は渡り鳥の雁に着目したがマスコット化は実現しなかった。
 昨年12月に新指導要領が発表になり、教育課程総体の見直しが焦眉の課題となった。今年度、新指導要領の方向に鑑み、教育目標の部分改定を行なった。新教育目標を「考える、思いやる、積み上げる」とした。
 考えるは継続し、思いやるはゾウを転用し「思いやる←→思いやるゾウ」とした。
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 「積み上げる」についてはマスコット化から思考モデルそのものとなった。「積み上げる」でイメージしたのはもちろん積み木。お古の積み木と算数の面積や体積の指導で使う立方体や三角柱などを掻き集め、また印刷用ロール巻き原紙の芯の紙パイプを切った円柱などを大小混ぜて置いてみた。そこは即刻、学年を超えた遊びの場所となった。積み上げては崩すという、子供の創造と破壊の小世界が余念なく繰り返されている。
エ 考察
 カエルやゾウのマスコットから始まり、トトロなどのキャラクターや積み木をギャラリーに常設的に展示して一年から半年近く経過した。この間の子供たちの反応、とりわけ仲間遊びの生成を見取る中で、それらが低学年はもとより高学年の大半にとっても教育的に有効であることを実感した。今後ともこの実感を大切に子供の目線に立ち、その心を読み取り、寄り添い、育んでいきたい。
 ところで、マスコットやキャラクターは図工・美術(造形)の領域で生み出されるものである。その意味でMIEなる造語を提案し一般化を図りたい。
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⒊ おわりに
 以上のとおり、現在、校長室とギャラリーが私の日常的なフィールドとなっている。子供たちを子供たちとして受容し、ふれあう日々に心洗われる発見があり、思索のための素材がある。そこでは良寛と手毬の世界に想いを馳せたり、フレーベルの恩物について改めて得心したりしている。



題材14 校庭の桜に学ぶ(総合学習へのアプローチ)

 総合学習へのアプローチ(T小で実践)

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(1) 単元名
  「校庭の桜に学ぶ」(小6学年)

(2) 単元のねらい

ア 校章のデザインの元である桜の花や桜の木と私たちの生活とのさまざまな結びつきについて考   え、桜に寄せる日本人の共通の心を感受する。
イ 開花から落葉までの桜の姿を観察し続け、季節によって移り変わる自然の営みについて知識を増  やす。
 ウ 桜の持つ食材や造形材、染材などの可能性を追求する。

(3) 単元設定の意図

ア 桜のもつ意味
 桜は、季節を愛でる春の花見の代表であり、日本人にとって最も愛され、親しみのある花木である。そして、桜は本居宣長の「敷島の 大和心を 人問わば 朝日に匂う 山桜花」とあるように日本人の心のモデルとされ、国花となっている。
 教育との関わりにおいても、四季の区別のはっきりとした一年の中で、桜の開花と入学の時期が同じに設定されており、始まり、はなやかさ、いさぎよさ、発展へのシンボルとして意味化されている。
 桜の花はその美しさ、華やかさを俳句、短歌、詩に詠まれ、絵に描かれ、デザインの元とされまた、その花木は飲食の材料や薬用、建築や造形の材料として様々な分野で利用されている。このような桜のもつ意味の広がりの中で、多様な学習や表現が成立する。
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イ、子供の実態と教師の願い
 私たちの身のまわりの対象は、人間のはたらきかけに応じてその存在の意味が違ってくる。身の周りの対象を学習の対象、魅力あるものにしていくことは一重に教師の創意にかかり、またそのような対象の開発は教師の願いであり、児童の生きる力の育成に結実するものである。
 本単元は、桜の開花のはなやかさを愛でるという一般的な関わりから始めて、多様な視点により見付けた課題を追求したり、他の学習領域をクロスさせたりして多様な学習や表現活動を仕組んでいく。
 実体験に乏しさがますます進行している児童の実態を踏まえ、校庭の桜という身近でかつ深遠な世界をもつ対象とのかかわりの中から様々な視点を設けてイメージ・発想を広げ学習や表現への意欲付けをまず図りたい。追求と展開、収束と拡散の学習過程を基本的モデルとし児童と共に、感じ、考え、学習を成立させていきたい。

ウ、新学習指導要領の意味するもの
 校庭の桜にかかわることで本校の創意工夫による特色ある教育活動が可能である。まず最初は、卒業式に小枝を切って促成的に桜の花を咲かすことに着目し、桜の花を愛でる、飾ることから枝、樹皮花弁、葉など捨てるところのない素材としての可能性やことば・意味世界の広がり挑戦していきたい。
 地域や学校の特色から学習を始めさせ、児童の興味・関心を徐々に掘り起こし、横断的・総合的な課題追求、探求活動に誘っていきたい。
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(4) 単元の構造

基本的な学習の場面 学習の視点・学習及び表現課題生成の視点 学習方法・分野・培う力

1 桜の花を見る
① 桜の花の匂いの感受、桜の歌をうたう
②桜の花をの形、色、花序を描く
③ 桜の花見、花見会食、桜に酔う。
④ 花の美を丸ごと味わう。桜吹雪に会う 全身感覚
歌唱力
描画力
観察力

2 桜の枝木でつくる
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① 桜の枝木を切る。
② 桜の枝木を削る。樹皮を剥ぐ。
③ 桜の白木を曲げる。
④ 桜の枝の白木を組合せる。 刃物と巧みな手
発想力 構想力
造形力 構成力
表現力

3 桜の樹皮を活かす
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① 桜の樹皮を嗅ぐ。 
② 桜の樹皮を乾かす。
③ 桜の樹皮を煮出す。
④ 桜の樹皮で染める。
⑤ 自然に還す
⑥ 樹皮を燃やす
衣生活と染色
染色技法
染色知識

4 桜の花弁の活用
① 花をちぎる。花を盗る。花を噛む。
② 花弁を愛でる。押し花。
③ 花弁を嗅ぐ。乾燥しポプリを作る。
④ 花を味わう。
桜湯をのむ、花弁の秩序、飲食の智恵、匂いの文化、味、香りの文化、五感を使う
5 桜の葉を活かす
① 桜の葉を採集する。押し葉をつくる。
② 桜の葉の匂いを知る。桜餅を食べる
③ 桜の葉で茶をつくる。桜の葉の乾燥。
④ 桜の葉で染める。 食物の発見
染色学習
葉の機能
葉の成分
6 桜の木とあそぶ
① 桜の木に触る。つかまる。
② 桜の木にぶらさがって遊ぶ。
③ 昇って遊ぶ。木から降りる。 遊ぶ、上る、共に過ごす、語る集う、触れ合う
④ 枝に腰掛け、眺める。
⑤ 桜の樹上や木陰で時を過ごす。感じる、触る

7 植物としての桜の
 木を知る
① 校庭の桜の一年観察
② 校庭の桜の一月観察
③ 校庭の桜の一週観察
④ 校庭の桜の一日または一時間観察。共感する
見付けだす、感受する、 記録する、記述する

8 ことばと意味の世界での桜を知る
① さくら・サクラ・桜の意味。
② 植物図鑑の中での桜。
③ ことわざの中での桜。
④ 俳句、短歌、詩や文学の中の桜。 文献を調べる
検索する、列挙する、分類する

⑸ 小単元(題材)とその実践

題材1 桜を愛でる(時数1)
ねらい 卒業式や入学式の促成で咲かせた桜の美しさを鑑賞し、感想を書く。
支援のポイント ・個に応じて、表現方法を選ばせる。
・自分の心を表すことばを見付けださせる。
  学習や追求の方法 (・俳句、短歌、定型詩、散文詩、随筆、感想文など)
・リングファイルに綴る
評価の視点(・桜の花の美しさの要素に気づいて表現しているか)
次への発展・関連
・桜を描く・桜満開集会
・促成的な開花と自然な開花との違い
・花見会食

題材2 桜の樹皮を剥ぐ(時数2)
ねらい 小刀などの刃物を使って花の散った、桜の枝木の皮と幹を剥いで分け、素材を作り出す。 支援のポイント ・刃物という道具の大切さと危険さに気付かせる。
・刃物の扱いについて練習させる。
・必要に応じて、手袋などを使用させる。
 学習や追求の方法 ( ・手と刃物を使って剥ぐ、削る、切る)
・白木の美しさに気付かせる。
・小枝の曲がりの美しさに気付かせる。
・生木の匂い、樹皮の匂いに気付かせる。
  評価の視点 (・木膚の美しさに気づいたか)
・後片付けをきちんとできたか。
  次への発展・関連
・木工小物の制作。・飾る・木工オブジェの制作。・使う・生け花に活かす。
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題材3 桜開花を祝う(時数1/4)
ねらい 自然に咲き始めた桜の美しさを全身で感受し、感想を書く。
支援のポイント (・個に応じて、表現方法を選ばせる)
・自分の心を表すことばを見付けださせる。
学習や追求の方法 ・俳句、短歌、定型詩、散文詩、随筆、感想文など
・リングファイルに綴る
  評価の視点 (・桜の花の美しさの要素に気づいて表現しているか)
・自然の大きな力、リズムに気付いているか。
 次への発展・関連
・桜を描く・桜満開集会・自然な開花との違い・花見会食

題材4 花見会食(時数1/2)
ねらい 満開の桜、晴天の下で、協力して配膳、準備をし、花を愛でながらの屋外会食を楽しむ。
  支援のポイント ・全員で協力する。・児童自身に計画させる。
・必要に応じて、敷物などを使用させる。
 学習や追求の方法
(・会食後の感想を多様な視点から掘り起こし、他の学習へと発展させたり追求させる)
・桜に寄せる日本人共通の心に気付かせる。
評価の視点(・全員が協力的に取り組んだか)
・後片付けをきちんとできたか。
  次への発展・関連 ・桜を表現している俳句、短歌、詩、小説など

題材5 桜の枝でつくる(時数2)
 ねらい 桜の小枝の白木を使って、仕える小物を作ったり、共同で環境を飾る作品をつくる。
 支援のポイント(・材料を余すことなく、有効に使用させる)
・学級・学年の共同で思い出に残る作品をつくらせる。
・余った小枝を活か方法を工夫させる。
  学習や追求の方法 (・大きめの枝の利用して造形させる)
・飾り、伝達のためのデザインを工夫させる。
・学級・学年共同の集合メッセージ作品をつくる。
 評価の視点 (・桜の枝のよさを活かして造形しているか)
・小刀や刃物、道具を適切に使っているか。
  次への発展・関連 ・環境のデザイン・桜について調べる・飾りのデザイン・伝達のデザイン
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題材6 桜の樹皮で染める(時数2)
 ねらい 桜の樹皮を染料として、紙や布を染めて生活に 役立てる。
 支援のポイント(・牛乳パツクのリサイクルとリンクさせ学習活動を発展させる)
・必要な道具を揃えたり、工夫する。
・必要な小道具を、自作させる。
・染色についての事前の準備を怠りなくしておく。
 学習や追求の方法 (・牛乳パックを回収させることから学習を始める)
・紙パルプの溶液に樹皮の煮汁を入れ染める。
・ハガキや色紙の紙づくりとする。
  評価の視点 (・牛乳パックのリサイクル方法を理解したか)
・方法に従ってきちんと染色できたか。
・協力して準備したり後片付けしたりできたか。
 次への発展・関連
・樹皮による堆肥づくり
・樹皮を燃やす
・ハガキなど作ったものを実際に使う。
・さまざまな分野でのリサイクル活動

 題材7 校章のデザインの 秘密 (時数2)
 ねらい 桜の形を元とした、校章のデザインのよさについて体験的に感じ取る。
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支援のポイント
(・原図に従って、定規とコンパスで書ける、作図のプロセスを順序通りに追体験させる。)
・デザインの原理について児童自身にに気付かせるようにする。
 学習や追求の方法 (・作図の順序をプロセスに応じて図示する)
・順序通りに、正確に追体験させる。
・元の桜の花の形の美しさについて分析させる。
・桜花の形の特徴についてまとめさせる。
評価の視点(・花の形の秩序について気付くことができたか)
・定規やコンパスを適切に使うことができたか。
・シンメトリー(対称)について気付いたか。
 次への発展・関連・国花について・桜の形のシンボル化について
・形と意味の関係について
・伝達のデザイン

題材8 桜は私たちの国花(時数2)
 ねらい 桜が国の花になっている意味を調べてまとめて発表する。
 支援のポイント・桜と日本人との多様で深遠な関係について興味付けて、調べさせる。
  学習や追求の方法(・調べ学習の方法を教える)
 ・図書館や百科辞典などの活用方法を工夫させる。
・インターネットの適切な利用を工夫させる。
・国花を定める意義について考えさせる。
  評価の視点(・自分のテーマを追求できたか)
・調べ学習を計画的にできたか。
・調べたことをきちんとまとめることができたか。
  次への発展・関連 ・さくらを歌ったうたを歌う。・桜湯を飲む・万葉集の中のさくら     ・桜餅を食べる・桜の観察・桜湯の産地を調べる ・桜の花の成分分析


題材13 卒業式の感動を育てる共同制作

卒業式の感動を育てる共同制作
 
(1)題材名
  卒業制作「3年◯組・卒業のポーズ!」
(2)指導の目標
  卒業のイメ-ジを「飛躍のポーズ」として捉え、学級共同で大画面に挑戦し、卒業式に披露し、後輩達へのメッセージとする。
(3)領域、学年、時期、時数、材料、用具等
  絵画、3年、3学期、8時間、長尺画用紙(1m×10m)ポスターカラー等
(4)題材設定の理由
 中学校教育の最後を飾る卒業式に卒業合唱が取り入れられ音楽科が脚光を浴びる例は多く、それらの題材も沢山作りだされている。 美術科でも最終の題材として学級及び学年単位の共同・協力による「卒業制作」の題材が必要である。教科のねらいに合致するとともに卒業式を華やかに飾る作品として共同制作に取り組ませたい。美術科教育の締めくくりの題材として学級及び学年を単位に大規模な共同制作に取り組ませたい。
 三年生の美術の時数は週一時間と少ない。まして3学期となると実質的な授業ができるのは8時間程度である。卒業を間近にしたあわただしい時期の表現活動は特に綿密な準備が必要である。卒業式へ一日一日と近付いていく緊張感の中での表現活動を通して美しい思い出を作りださせたい。
 押し迫った日程の中で学級共同の大作に挑戦させるために、方法を明確にし、適切な学習課題を設定し、能率よく取り組ませたい。
(5)内容分析(教え育てる要素)
(ア) 美の把握
 視覚言語としての人の形、ポーズの美。
(イ) 主題
 卒業のイメ-ジを人の形、ポーズで捉える。
(ウ) 対象の見方、表し方
 新聞や雑誌の資料を主に、観察を従にして表現する。-以下この項省略-
(6)指導過程 (課題構成)
課題1 自分のイメ-ジに合ったポーズを考える。(身の回りにあるスナップ写真、新聞、雑誌等の中から気に入った人間のポーズを見つけだしてデッサンをするなどして考える。)(1時)
課題2 全紙の薄い紙に思い思いの描き方で   人間の形をしっかりと描く。全体と部分のバランスに注意し、お互いをモデルにするなどして細部を修正する。(1時)
課題3 人間の形に他のイメ-ジをダブらせたり、メッセージを加えたりして主題を強調するなどの表現の工夫をし、下絵を完成する。(1時)
課題4 課題3の下絵をハサミで切り、型紙とする。
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課題5 (共同制作に入る)全員の型紙を大きな紙に乗せて、全員のアイデァを出し合って構成を考える。全員のポーズの構成によって学級のイメ-ジを生み出す。そして、それぞれの作品を配置する位置を決めて転写する。(1時)
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課題6 全体のまとまりを考えながら、一人一人が卒業式にふさわしい祝祭のイメ-ジで派手に彩色する。(2時)
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課題7 自分の名前やメッセージを書き入れたりして、細部を仕上げ、共同制作を完成させる。       (2時)
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課題8 学級全員で完成作品をバックに記念撮影をするなどして完成の喜びを味わう。次に卒業式場に展示し、式当日に正式に披露する。 
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(7)指導のポイント
 この作品では、完成のイメ-ジとしてグランドで思い思いに遊び、跳びはねているような自由と散乱のイメ-ジを重視する。作品の画面上の中心はあるが、一人一人の人の形、ポーズは等価値であり、その構成の差異によって共同作品としてのオリジナルなイメ-ジを生みだすのである。その意味で、課題5では一人一人の型紙を自由に動かして全体の構成を工夫し、一人一人のポーズによって視覚的な美しさ、響き合いが作りだされるように留意して構成し、学級全員の共同・協力による絵画を生み出していく。
*残された作品は次年度の数ヶ月間展示され、学校生活を盛り上げる役目を果たす。
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(この題材はY中で1988〜89の3年間実践された。この実践を元に、J中で「パズルメッセージ」を開発した。)
   


題材12 学校興しの全校美術 

学校興しの全校美術の共同制作

1 題材名 「全校共同の力」
2 目標 
 生徒全員が、飛躍・未来へのステップをテーマに、元気よく運動しているポーズをシルエット的に全紙に表現して切り抜く。そして、それを体育館の壁全体に張り巡らし、テーマである「共同の力」を表現する。
3 指導過程(5時間の課題構成)
課題1 
写真や漫画などを参考にスケッチし、自分のイメ-ジに合った人間のポーズを決める。(1時)
課題2 
 人間の形を全紙の大きさにしっかりと描く。全体と部分のバランスに注意し細部を修正する。  (1時)
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課題3 
 人間の形に他のイメ-ジを重ねるなど、デザインを工夫し訴求力のある作品を創りだす。    (2時)
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課題4 
 彩色を終了し、人間の形をハサミで切り抜く。そして、友達の作品との調和や共振を考えながら切り抜いた形を体育館の壁にセロハンテープで直接に貼り付けていく。(1時)
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4 指導のポイント
 全校の生徒の作品が張り終った時点で、壁全体の美的構成を考えて一部の作品の位置を移動させる。また、作品完成を祝う全校セレモニーを行い、制作の意義をかみしめさせる。可能な限り長期間展示し、自分達の作品で飾った空間で学校生活を送らせる。
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5 指導を終えて
 全校262人のポーズが跳びはねている壁は迫力満点で、4ケ月以上体育館が本当に生徒達自身の空間に変わったような実感があった。地域の人達も喜び、学校全体の雰囲気が盛り上がり目標はほぼ達成された。(Y中で実践)
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題材11 学年の共同制作「パズルメッセージ」

学年の心を一つにする共同制作

1、題材名 「学年パズルメッセージ」
 (7クラス306人と先生方でつくる一つの作品)

2、指導の目標
(ア) パズルゲーム感覚を働かせ 「テトロミノパズル (16ピース正方形型)」の解答の一例を1m×1mの大きさに拡大し、その5種類の単位形の一つに自分の誠意あるメッセージをレタリングしデザインを工夫し楽しく表現する。
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(イ) 各学級でグループを単位にと学級担任、副任の先生が仲間となって作品をつなぎ合わせ、16ピースのパズル型に構成されたグループメッセージを3つ(合計1m×3m)つくり出す。
(ウ) 7クラスのパズル型のメッセージをつなぎ合わせ、学年共同の力で2m×10,5mの一つの作品をつくり出し、作品完成の喜び、所属感、連帯感を味わう。

3、領域、学年、時期、時数、材料、用具等
 デザイン、2年、5~6月、6時、長尺画 用紙、ポスターカラー、のり

4、題材設定の理由
 本学年の実態は、集団意識が希薄で、凝集力や協力性に欠ける行動が目立っている。それらに打ち勝つリーダーシップも規範意識もまだ育っていない。そのような実態を踏まえこの時期の目標「人格をお互いに認め合い、助け合って生活できる仲間づくり」に迫るには、共通の感動体験を通して集団の一員としての所属感を育てることが前提である。
 この所属感を育てるに、ジャンケンやくじ引きのような一つのルールによる平等性、そして一人一役制や輪番制という平等性を基本とすることは有効なことである。
 ところで、現在の生徒の価値観や感性は学校での教育活動以上に、急速に進行する情報化社会の中で直接的にもまれて育まれてきている面が大きい。例えば、現在の中学生は全員が15分刻みのコマーシャルタイムに慣らされてきたテレビ世代である。そして、ほとんどがファミコンゲーム等のテレビゲームに熱中してきた世代である。テレビのチャンネルの選択肢は多くなり、また沢山ソフトを所有してさえいるゲームの虚構の世界の中では、自分が主役となって意外性に満ちたストーリーのもとにで夢中になって遊べるのである。 題材設定に当って、このような生徒世代に特徴的な価値観や感性に訴えることは重要である。
 つまり、現在の中学生の内面・感性に迫る教育をするには、多様な選択肢を与え得る活動や意外な展開性のある活動、一人一人が主役となり得る平等性のある活動を実現させる必要がある。
 以上のような考えから、生徒に共通の興味・関心があり、ゲーム感覚で楽しく安心して取り組める「テトロミノパズル」の原理を応用した「学年パズルメッセージづくり」という題材を開発した。
5、内容分析-省略-

6、指導過程

課題1 学年活動のオリエンテーションと準備。 (1時)
・ 内容、方法の説明 学年集会・5色の紙で5種類の単位形をつくる。
・ 各クラス2~3名、放課後活動   

課題2 共同作品の構想を練る。 (2時)
  ・男女混成で学級を3つのグループに分ける。    
  ・パズルの組み合わせ、表現効果を考える。
  ・一人一人の形(色)、貼る位置を決定する 。(グループ活動)
  ・自分のメッセージとデザインの構想を練る。
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課題3 自分の作品を工夫して仕上げる。(2時)
  ・自分のメッセージを決め、下書きをする。      
  ・配色の効果を考え、美しく彩色する。
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課題4 学級・学年の共同作品を完成させる。(1時)
・一人一人の作品を完成させ、それを貼り合わせグループと学級の作品を完成させる。
・各学級の作品を貼り合わせて学年の作品を完成させ、公共の場所(理科室前の廊下)に展示する。
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課題5 活動の評価と反省をする。(各クラスで)
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7、指導のポイント
(ア) メッセージを考えることで自分自身のあり方を見直させる機会とする。
(イ) パズルとして幾通りもの組み合わせが考えられる。どのパターンを選ぶかを巡る話し合い活動の場で民主的に話し合わせる。
(ウ) 一人一人の作品が主役であり全体を構成する掛け替えのない作品であり、また、7クラスの協力・協働によって一つの作品が完成することの意義を強調する。
8、反省、評価
前例のない作品のため、生徒一人一人にも教師の側にも作品の全体完成像への意外な表現効果や発見への期待があり、意欲の持続は充分であった。306人全員の生徒はパズルの5種類の単位形の一つに自分のメッセージを書き、そしてパズルの解答例の形に張り合わせ、大きなメッセージアラベスクとも言える共同作品をつくったのである。生徒と学級担任と学年部の先生方が文字通り一つになった作品は見事なことばとなった。活動のねらいはほぼ達成され、題材開発の試みは成功したと評価している。
 この活動は、本校の同和教育研究の一環として取り組まれたものであり、協力することや所属感の育成を主たるねらいとした。しかし、実質的には美術そのものの表現活動であったわけである。その意味で美術科の教科性について改めて考えさせられた実践であった。
                                   
                    
9 活動の実際   
 本活動題材のねらいは、学級集団の凝集性を高める仲間づくりの面から、一人一人の考えをメッセージとして素直に表現させ、それをお互いに交換し合って所属意識を高めようすることである。また、生徒のパズルゲーム感覚を重視し、そのメッセージを16ピースパズルの5種類の基本パーツの一つにレタリングさせ、それを組み立て学級及び学年の共同作品(パズルメッセージ)をつくり、一つのことを完成させた感動体験を育てることも目標としている。
 言わば、パズルを学級、学年づくりのモデルとしたわけである。一人一人の生徒がパズルの一片であり、それに書かれたメッセージであり、学級及び学年として様々な組み合わせのかたち(集団のあり方)が考えられるというわけである。
 全クラスに共通な指導の工夫としては、美術学習での伝達のためのデザイン作品(レタリング作品)を導入段階で数多く参考資料として提示したことである。また、生徒手帳の各ページに書かれていることわざをすべてまとめて参考資料として与えることとした。また、不真面目なメッセージはパズルゲームのルール違反として指導してきた。
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10 活動を終えて 
・生徒一人一人のメッセージは、資料として配られた生徒手帳の格言やことわざ、書物より直接引用したものや、日頃慣れ親しんでいる前進、根性、闘魂、挑戦などのことばが多かったが、それぞれの個性を感じさせるものだった。中には、創意のあふれる「45人集まりゃ文殊の知恵」というものもあって感心させられた。
 活動を終えての生徒の感想は、「みんなが、一つのことを目標にして努力することがよかった。また、みんなでやろうときめたことができたことも」、「一人でもグループからぬけたり、おくれたくすると一つのことができなくなるということ」、「2年生は、わりとまとまりのない学年と思われているけど、今回のパズル作りでは、みんないっしょうけんめいやり足並みがそろったと思う」Y君が、M君の作品を手伝ってあげた。私は、友達に“ここをどうやったらいい”ときかれた時に力をかすことができました」などである。本活動を通し、小さいものだが仲間としての心の結び付きの輪が確実に広がったのである。この学年の共同作品は、2ケ月近く理科室前の廊下に展示され、全校にアピールした。本活動のねらいは、ほぼ達成されたと評価している。(J中での実践)

この題材は、筆者の在任中の平成元〜4の実践の後、後任の方々に継続実践され「卒業学年パズルメッセージ」として、10年以上にわたって実践された。この写真は1997年に撮影。後任のM教諭、I教諭、O教諭にここで感謝申し上げたい。
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題材10 エコロジー系の題材-2

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エコロジー系の題材

1 題材名 「広告物の変身」

2 目標
 新聞の折り込み広告等の印刷物から、色の部分を切り取り、それを利用して美しい平面構成作品をつくり出す。(対象 中学一年 (5時間)デザイン)

3 題材観
 新聞に折り込み広告は付き物であり、それは、私たちの消費生活と密着しているものである。しかし、その大半は眼を一度通されれば良い方で即刻捨てられてしまうのである。その宣伝にかかる費用は、商品の値段に含まれているわけであり、良く考えてみると一枚のちらしの中に社会の仕組が縮図となって見えて来るのである。
 そのちらし類を宣伝情報としてではなく、色面の集まりとして捉えてみると、最近の印刷技術の向上からきわめて美しい色面を多く見出すことができる。その色の部分だけを切り取れば、それは市販の色紙に代わる造形材料として充分に利用できるものである。そのような考え方から、新聞広告物を素材とする平面構成の題材を設定したい。素材とするものは雑誌の色面のある部分でもよいわけであり、とにかく捨てられる運命にある印刷物を選びたい。
 まず、素材となる宣伝のための印刷物体を沢山集めさせる。そして次に、その宣伝の目的、印刷技術、伝達表現の工夫、印刷メディアの特性、広告物と生活との結び付きなどを考えさせたい。そのことによって、広告物に対する習慣的な見方を問い、別の角度から光を当て、今まで気が付かなかった意味の世界に気付かせたい。また、その色の部分のみを切り取り、色紙として利用することによって、資源の再利用の大切さについて深く考えさせたい。
 尚、新聞を取っていない家はほとんどないと思われるわけだが、そのような生徒の存在も考慮し、協力グル-プを設定したい。お互いが不用な広告用紙の類を持ち寄って、必要なものを交換し合いながら色面を切り取らせたい。
 台紙は八つ切りの画用紙、用具はハサミを使用する。接着剤はアラビアゴム糊が一番である。
4 題材のイメ-ジ地図
(1) 広告物と生活との結び付きのイメ-ジ
スーパーマーケット、買い物、日用雑貨、安売り、大売り出し、宣伝
(2) 広告物の宣伝や製作技術のイメ-ジ
オフセット印刷、凸版印刷、グラビア印刷、印刷機械、レタリング、レイアウト、宣伝文句、キヤッチフレーズ、印刷インク、版下、マーケットリサーチ
(3)色に関するイメ-ジ
色の感情、色の性質、色の三要素(色相、明度、彩度)、類似色、対照色、色の対比・進出・後退、色のトーン、色の調和
(4)平面構成に関するイメ-ジ
リズム、バランス、ハーモニー、グラデーション、リピテーション、ブログレッション、連続模様、単位形

(この「題材のイメ-ジ地図」は、題材の内容をより明確に捉えるために作成するものである。視点の取り方でもっと多様に展開できるが、このような教師側のイメ-ジ地図からいろいろなことばが選び出されて生徒の学習に供されるわけである。そして、教師のイメ-ジ地図に対応する生徒一人ひとりのイメ-ジ地図が形成されることによって追求すべき主題が決定されたり、学習や表現が深まっていくわけである。筆者にとつて、これを作成することが指導案の形式の改善の一つなのである。)
5 指導過程(課題構成)
* I過程
課題1 新聞広告を中心に、美しい色面の多い印刷物を沢山集める。(事前学習)
課題2 広告物をテーマに詩か文章を書く(1/2時)
(この課題は、生徒と広告物との結び付きの原体験を掘り起こすことをねらいとしている。日常的過ぎてことばにし憎いものであるので、箇条書きに書かせたり、詩のように書かせたりする。ブレーンストーミング的に授業を進め、生徒の色々な考え方が出てくるように援助する。)
* M過程
課題3 広告物から色の部分を切り取る(広告物の部分という性質をなくしてしまう。切り取られたものは色紙となるようにする。)(1/2時)
* T過程
課題4 切り取られた色紙を利用して、どのような平面デザインに構成するか構想を練る。(1時)

(素材としての切り取られた色紙は、あまり大きくないので、小さな単位形の繰り返しの美しさ等を発見させたい。造形秩序がはっきりと見て取れる作例を鑑賞させてもよい。試作品をつくらせるなど、計画的に製作していくための構想をきちんと練らせる。)
課題5 自分の構想の実現に向って、部分修正を加えながら造形操作する。  (2時)
(不足した色は、家から持って来たり、他のグループから譲ってもらったりする。途中での構想の修正によって作品が失敗作に終ることのないように、生徒一人ひとりを看取り援助していく。)
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* S過程
課題6 作品を完成させ、お互いの作品を鑑賞し合い、学んだこと、気付いたことなどをかみしめてまとめる。(1時)
6 本題材の指導のポイント
(1) 日常生活の中に習慣づいている広告物の常識を問い直す視点を大切にすること。
(2) 通常使用している市販の色紙材料を使用しないので、教材費が軽減されること。
(3) 捨てられるものを生かして使うという意味で、資源の再利用や省資源の問題について考えさせることのできる題材であること。
(4) もの(広告物)を解体し、別のものに再構築するという明確な造形思考のすじ道にのっとる表現学習であること。
(5) 単位形の繰り返しによる構成の美しさなど、構成学習の基礎基本を充分に育てることのできる内容があること。
(このテキストも題材9と同じ1986年に題材構想として書かれたれたものである。その後、1〜2時間程度のつなぎ題材として2〜3回の現場実践がある。)

題材9 エコロジー系の題材-1

エコロジー系の題材

1 題材名 「牛乳パックのリサイクル」

2 目標
 牛乳パックに含まれている良質のパルプ材を取り出し、それを材料として装飾品をつくる。
 (対象 中学二年 (8時間)デ・工芸)

3 題材観
 私たちの毎日の生活の中から不断にゴミが生み出され、捨てられている。世は、まさに使い捨ての時代である。しかし、そのゴミとして捨てられているものの中に直接的、間接的に再利用が可能なものが沢山ある。その一つに牛乳パックがある。牛乳パック(清酒パック等もあるが)は、厚手のパルプ紙を薄いビニール面でサンドイッチしたものによって作られている。その芯材として使用されているパルプは、ビニールがついているために廃品回収の対象になってはいないが、きわめて良質なものと言われている。そこで、そのビニールを上手に取り除いて、紙資源(造形材料)として再利用してみようと考えたのである。
 再利用を思い付いてから、まず最初の困難点はビニール面をはがす技術であった。カッターのような鋭い刃物を利用して直接はがしてもよいが、かなり時間がかかり無駄も出る。色々と実験を重ねて、水で30分ほど煮詰めると紙に水が浸透し繊維がふやけて、きれいにビニールがはがれることに気が付いたわけである。その次は、水にふやけた紙をちぎって原パルプにもどす工程がある。これは、調理に使うミキサーが一番である。量さえ多すぎなければ、ミキサーが壊れることはない。適度に水を加えて一分ほど回転させれば、紙はドロドロの紙料の状態になる。それをバケツ等に入れて、あとは型に流し込んで乾燥させれば良いのである。すこしあら目の布を使って、紙漉きの用具を作って漉いてもよい。紙の繊維の質感の美しい手作りの紙を作ることができるのである。この紙を再生する作業工程は言わば、くず鉄を溶鉱炉に入れて溶かして再製品化することと同質の工程であり、体験させる教育的価値は今日的にきわめて大きいと考えられる。
 材料の牛乳パックは簡単に手に入るわけだが、題材化していくにはミキサーや鍋等の大物の用具類の準備は教師側でしなければならない。むろん、紙料をどのように造形材料として使用し、造形作品を生み出すかが重要な問題である。本題材では、薄いレリーフ的表現の壁飾りとしておくが、その他造形的可能性はきわめて大である。生徒が準備しなければならないものとしてハサミ、カッター、型づくりの材料としてボール紙(菓子箱の類でよい)やベニヤ板が必要である。
4 題材のイメ-ジ地図
(1) パッケージの材料とデザインのイメ-ジ
紙、ビニール、プラスチック、木、金属、アルミ、ガラス、安全性、清潔感、消耗品、宣伝性、訴求力、装飾性
(2) 資源再利用のイメ-ジ
廃品回収、不用物交換、リサイクルシヨップ、ゴミの日、ゴミ収集車、資源小国日本、資源開発の必要性、エネルギー問題、清酒瓶、ビール瓶
(3) 紙のイメ-ジ
和紙、西洋紙、わら紙、紙幣、塵紙、ボール紙、画用紙、障子紙、紙繊維、パルプ材、ノート、書物、紙工芸、手漉き和紙、こうぞ、みつまた、紙工芸、和紙人形
(4) 壁飾りとレリーフのイメ-ジ
民芸、土産もの、額縁、凹凸感、影の美しさ、壁面装飾本能、白壁、構成の原理(リズム、バランス、ハーモニー、テクスチャー)

5 指導過程(課題構成)
* I過程
課題1 菓子箱などのボール紙やベニヤ板などの切れ端を利用して、壁面装飾を目的に、レリーフ的構成作品(紙料を流し込む型)をつくる。(4時)
・大きさは、最大で八つ切り(B5版)程度にする。
・ボール紙を切って貼ったり、重ねたり、追って凹凸をつけてリズムを出したりして表現する。特に、光を当てた時に影が美しい感じになるように工夫する。
・それ自体で装飾的構成作品となるわけであるが、後に紙料を流し込む型にするために、周囲に紙料流出防止用の高さ一センチ位の紙を巡らし、箱のふた状のものをつくる。
・具象的な表現より、円や三角形、正方形等の抽象的な形の組み合わせや構成の美しさを表現することをねらいとする。
・紙工作に適した強力な接着剤を使用するようにする。
・純粋な構成作品ではなく、文字等を入れてメッセージを含んだ作品としてもよい。
* M過程
課題2 牛乳パックを集め、両面のビニールをはがし紙材を取り出し、ミキサーにかけて水に溶かし紙料をつくる。(1時)
・牛乳パックは一人5個位用意させておく。
・ビニールのはがし方は、直接法でもよいし、鍋ゆで法でもよい。
・バケツを4から5個用意し、そこに水を入れ紙を手でできるだけ細かくちぎって投げ込み、水で紙の繊維が水で柔らかくなるようにする。
・ミキサーの粉砕許容量に注意しながら紙の水溶液(紙料)をつくる。
・ミキサーはできるだけ大きなものを準備しておく。
・八つ切り大の作品には、1リットル牛乳パック三個もあれば充分である。
・紙の水溶液(紙料)は、季節にもよるがかなりの長い間保存できる。
* T過程
課題3 型に紙料を流し込んで、水分を抜き乾燥に入る。(1時)
・流し込んだ紙料の上に木綿等を乗せ板状のもので圧力をかける。すると、水分がしみ出てきて乾燥が促進される。
・日差しの強い5月から7月頃なら一日で乾燥して出来上る。(冬場は、乾燥条件が悪いので避けた方がよい。)
・流し込む時に、厚みのない物体なら紙の内部に封じ込めることができる。
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課題4 乾燥が終ったなら、型を取り外し、細部の不必要部を除去し、展示し易いように裏にひもをつけるなどして仕上げをする。(1時)
・紙という材質をつくったわけであるので、着色しないで、その質感、その材質の色を大切にする作品とする。
* S過程
課題5 完成作品を鑑賞し、完成の喜びをかみしめさせると共に、全ての活動過程を振り返って感想文をまとめる。
・この題材は、全て終ってみないと理解できないものが多い。その意味から、最後に資源の再利用等の問題を跡付けるようにする。
6 本題材の指導のポイント
(1) 紙をつくり出すことから出発する、人間としての全体性を養う根源的な造形活動であるということ。
(2) 捨てられる運命にある牛乳パック等の物質を、創意工夫を働かすして再利用する文明批評的な意味のある造形である。
(3) 作品は、凹凸面のつくり方が造形条件であり、自由な発想が生かされ、多様な表現が可能である。
(4) 私たちの日常生活で、どれだけ多量の物質をむだに消費しているのか、深く考えさせたい。

(このテキストは環境という視点が重視されるようになった情勢を踏まえて、1986年に題材構想として書かれたものである。その後、総合的な学習の時間が設けられで、再生紙を作る体験学習として取り組まれることが多くなった。写真は、校長を務めたT小での5学年の例。私自身による中学校での実践例はない。)          



題材8 学年メッセージ・アート

共同で行なう創造活動-1学年メッセージ・アートへの取り組み-
                              
 美術科では、新しい学力観による指導の工夫として、生徒の興味、関心、意欲を育て表したい、つくりたいという願いが生かされる題材の開発と設定が急務である。
 題材の開発や設定で重要なことは生徒のよさや可能性を信じ、美術表現のよさを十分発揮した学習活動の展開を可能にすることである。つまり、美術表現の本質をわきまえて、学校の実情や生徒の実態に即して題材の内容を工夫し、体験的な活動を組み入れたり発想や構想の過程を充実させ、表現力の向上を図ることである。
 本題材では、指導計画の作成と内容の取り扱いにおけるニューワードである「共同で行う創造活動」の開発の試みとして、個人の表現にはないグループ、学級、学年での共同制作の造形活動あり方を追究した。
 本題材を設定した直接のきっかけは、生徒の版画嫌いの実態であった。版画を取り止めて、生徒の希望のモダンテクニックを取り入れ、その体験的な造形活動を単発のものとせず、いじめ解消や思いやりを訴える学年スローガンのメッセージアートに結実していく共同制作の過程を設定していった。その過程で一人で行うことと違った表現の喜び、大きな感動体験を培うことをめざした。

1はじめに
 1学年は2学期の郡写生大会の取り組みのあと、テラコッタ粘土で鳩笛やオカリナなどの土の笛に取り組んできた。次に予定されていた木版画題材に入る前に、生徒の思いや願いに関わって版画について興味や関心について調査してみた。その結果、大半の生徒は木版画のよさを体験できず失敗体験が多く、嫌いであるというはっきりとした実態がみえてきた。生徒の木版画への思いは次のようなものであった。

 ・下手な人はおもいっきり下手になる。手が器用じゃないとうまく彫れない。失敗する と取り返しがつかなくなる。絵のようにうまくいかない。失敗したら変になる。失敗すると直せない。一回まちがえるとなおせない。彫るのを失敗するとめんどうだ。彫るの が難しくて手間がかかる。人の顔を彫るときうまく表せない。
 ・細かいところを彫るのがめんどう。彫るのがたいへん。彫っているとだんだん変になるのが目に見える。絵をかくのも彫るのもみんなイヤ。削っているうちに変になる。さいごの方で彫るのがいやになってくる。時間と手間がかかる。出来上がりがどうなるか あまりよくわからない。・下書きを木にうつすのが大変。下書きがうまくいかなくて苦 労する。・手が黒くなるのでいやである。インクで手や体操着が汚れる。ゴミが沢山出る。ケガの可能性がある。

 学年43人の中に、「彫る時失敗したこと。でも全体的に言って楽しくて好き。」というポジティブなのが一人だけで、あとはみなネガティブなものだった。中には、「人しかやらしてもらえなかった。」という主題の決定に関わるものもあり、生徒の思いに少し配慮できれば解消されるものも沢山見受けられた。大半は版画特有の課題につまずいている実態の証言であり、重く受けとめていく必要を感じた。
 このような実態を受け、思い切って題材を変更をしてみようと、生徒の希望を調査したところ、美術の資料集にある「いろいろな表現技法-モダンテクニック」やつくったもので遊ぶことのできる「造形的パズル」に希望が集まった。
 折しも、筆者にNHK総合テレビの番組「人間マップ」への出演の話があり、番組の中で生徒との授業の様子も一部紹介したいということになった。突発的なテレビ取材の話を生徒に話しても半信半疑の様子だった。しかし、全国に放映されるという意義を考え、生徒の生き生きとした表現活動の姿を見せるべく、「造形遊びで楽しもう」というキャッチフレーズで学習を開始し、その生徒の活動を見ながら後の展開を工夫していくことにした。

2 第1段階
 ⑴題材 「造形遊びで楽しもう」
 ⑵目標 「モダンテクニックの体験的活動を通し、造形の楽しさを深く味わい、意欲や     感性を培う。」
 ⑶題材設定の理由
  生徒の実態を考慮し、美術活動を活性化を図るため、領域概念から逸脱をも射程に入 れて、やることも必要である。
 モダンテクニックは偶然性の多いマーブリング、吹き流し、にじみ絵、ドリッピング デカルコマニー、スクラッチ、フインガーペインテイングなどと意図的な工夫や技術性 が要求されるフロッタージュ、スパッタリング、スタンピング、コラージュ、フォトモ ンタージュなどである。
 活動開始に当たり、これらの技法についての簡単な示範をし、生徒の感性を直接ぶっつけさせて取り組んでいくことにする。
 ⑷ 課題構成(4時間)
課題1 偶然性への挑戦
   (モダンテクニック)(1、2時)
  ⑴ にじみの楽しみ
  ⑵ 絵の具を飛ばす
  ⑶ 指のいたずら
  ⑷ デカルコマニーはすぐできる
  ⑸ スタンピングはペタンと
  ⑹ ひっかきでかく
  ⑺ 吹き流しで流す
  ⑻ マーブリングはぐるぐる
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課題2 みんなでつくる大きな作品(抽象的ペインテイング、共同作品)(3、4時)
  ・課題1の学習を生かし10mのロール画用紙の大作をつくる。
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 ⑸考察
 課題1は3学期に入っての第1時間目に、まず4ツ切り用紙を思う存分に使って、体験
させた。個人でも2~3人のグループでもよしとした。多い生徒で一人4枚の例もあり1時間で画用紙や奉書紙合わせて50枚を越えるモダンテクニック作品が生み出された。モダンテクニックの自由自在な表現方法に少し慣れたのを見て、続く2時間目に番組の収録を行なう運びとなった。
 収録の時間では、全紙の画用紙を用意した。単独の造形体験それ自体の規模で、それまでの造形体験の枠組を越えるように配慮したわけである。
 続いて、それらの体験を生かして全員で10mの大作に挑むことにした。色の濁りに注意 を払わせたのみで、モダンテクニックの造形活動である。生徒は夢中になって取り組んだが、1時間が終わってもまだスペースが沢山残った。続く、2時間目も取り組んで思い思いに画面を埋めていった。出来上がった作品を眺めてみて、なんとなく物足りなさが残った。それは、モダンテクニックの体験を生徒なりに十分に消化していないことが原因のように思われた。そこで、たまたま数個描いてあったハート形という自分たちで意味の分かる形をそれぞれが思う存分に描き加えようということになった。不定型の流れるような画面、ドローイングやにじみの画面をベースに彩りも多彩に大小様々のハート形が埋め尽くされた。さすがに、生徒の素直な気持ちが表された画面になったわけである。そして、その大画面に学年全員で決めたスローガンを書くことに次の展開を煮詰めていった。
 この段階までの生徒の反応は次の通りである。全員が楽しかったと答えてくれている。
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・自由にいろいろなものがかけたのでよかった。
・おもしろかったし、楽しくできた。
・たのしくできた、いろいろな模様ができた。
・最初はどうやっていいのか分からなかったけれど、大きい紙にかくときはうまく色がぬれたと思う。楽しかった。
・いろいろな筆の使い方があるということが分かったのでよい経験になった。楽しかっ た。
・遊びかんかくでいろいろなことができたのでよかった。もっとめちゃくちゃにやってみ たかった。
・とても楽しくできてよかった。面白くってもっとやりたいな、と思った。
・自分のやりたいようにできたと思う。大ざっぱすぎたかも知れない。絵の具が服とかに ついてしまった。でも、楽しかったのでやれてうれしい。
・はじめてやってみたけど、とても楽しかったので、またみんなでこういうことをしてみ たいと思った。
・楽しかったです。これは、けっこうまじめにできたと私は思います。
・はじめははずかしかったけど、取り組んでいるうちにおもしろいもようができたりして とてもおもしろかった。指のもようもおもしろかった。

3 第2段階

 ⑴ 題材 「学年のスローガンを決めよう」
 ⑵ 目標 「2年進級への決意やいじめのない思いやりあふれた学年づくりのために、      全員の気持ちを表すスローガンをつくりだす。」
 ⑶ 題材設定の理由
  11月の春日中の事件の後、当校でもいじめ総点検の取り組みがなされた。1学年は全 員で「いじめをなくす」ことの対策を考えて、学年公開討論集会を2学期末PTAの折りに開催した。このような学年の取り組みの実績を美術学習に生かし、「いじめをなく す」ことも含めて学年全員の気持ちを表すスローガンをつくりだし、今後の学年の雰囲 気とモラールを高めていく一助とさせようと考えた。そしてそれを大看板のメッセージ アートとして共同制作し、体育館に掲示しようと考えた。

 ⑷課題構成(4時間)
  課題「イジメを解消問題も含めて学年のスローガンを決めよう。」
 主旨説明のあと考え出された、第一次案は次のようなものであった。(1時)

1 夢に向かってがんばろう
2 命大事に みながんばれ
3 命大事に いじめをなくそう
4 みんな FIGHTだア!
5 みんなの力でいじめをなくせ!
6 みんなでなくそうイジメ問題
7 大空へとびたとう
8 明るい学級に!
9 心を一つにしてとびだそう
10 未来を信じて
11 明日に向かってはばたこう  
12 いじめ(部活)をなくそう
13 人生は上々だ
14 協力し合える学級
15 月日がたっても友達でいよう。
16 体は小さくても心の大きな人に
17 あきらめず最後まで
18 視野を広げよう
19 苦しいときこそ助け合おう
20 頑張ろう
21 人生、娯楽を大切に
22 栄光の学年 
23 BigプッチンプリンのようにBig
24 みんな 助け合おう
25 協力しよう
26 人生のスタートライン
27 マンキでいこう
28 未来へはばたけ29 みんな がんばれ
 これら一人一人の案を生徒の代表が読み上げ、支持できる案にに挙手するという方式で合意を探っていった。しかし、なかなか沢山の支持を集めるものがなく、生徒の意向は分散するばかりであった。そこで、何か提案がないかということででてきたのが流行しているウルフルズの歌「ガッツだぜ」のことばを生かしてみようということであった。みんなで改めて考えてみたのが次の案である。

第二次案(2時)
・ 未来のためにガッツだぜ。
・ ・ガッツだぜ。みんなで力をあわせれば。
・ ど根性でガッツだぜ。
・ ・なんでもガッツだぜ。
・ いつもガッツだぜ。
・ ・みんな ガッツだぜ。
・ 夢に向かってガッツだぜ。
・ ・みんな くじけるな。
・ 未来に向かってガッツだぜ。
・ ありのままに がんばろう
・ 僕らの合い言葉「ガッツだぜ!」
・ ・ど根性だよ ガッツだぜ
・ いつも笑顔でガッツだぜ。
・ ・にらめっこをしない。
・ ガッツで行こうぜ!どこまでも。
・ ・いつも笑って前向きに
・ これからの人生、ガッツだぜ。
・ ・ガッツだぜ(スタートライン)
・ ガッツだぜ。みんなでめざすいい学年。
・ ・苦しい時こそ、ガッツだぜ。

 同じように紹介し支持を求めたが、圧倒的な支持は見れなかった。もう一度、一次、二次案のよさを別のことばで端的に表そうということで三次案を考えさせてみた。主な案は次の通りである。
・明るく、楽しい学校めざして。
・素直で明るい学年に。
・いつも明るく前向きに。
・楽しく話そうだれとでも。
・未来に向かってはばたこう。
・夢に向かってはばたこう。
・負けられねぇ、いじめられっ子、強くなれ
・大事なのはなかみだ!
・卒業への道のりは、信頼×協力

 これらについて支持を求めてみると、「信頼」と「協力」ということばが使われていたI君の案に集中した。「信頼」と「協力」という二つのことばがみんなの考えを表すのにふさわしいものとして圧倒的に支持されたのである。

 次の時間は「信頼」と「協力」を使って全員で考えた。主なものは次の通りである。
・ 信頼と協力をもった栄光の学年に。
・ ・何でも協力し、信頼できる学校に向かって
・大事なのは信頼と協力。  
・ なにごとにも信頼と協力。
・ ・協力し合い信頼できる学校に!
・ どんなことにも信頼と協力をしていこう。
・ ・信頼と協力を忘れずに
・ 未来に向かって信頼と協力。
・ ・信頼と協力の輪を広げよう。
・ 信頼と協力を胸にひめ
・ ・信頼し合い、協力し合って生きよう。
・ 明日への扉は、信頼と協力で開ける。
・ ・信頼し協力しあう仲間に
・ 友達の信頼、みんなで協力
・ ・信頼と協力を大切に
・ 信頼と協力は楽しい学校生活をつくる。
・ ・信頼と協力、いい学年作りの第一歩
・ 信頼と協力の心を持とう。
・ ・苦しい時こそ信頼し、つらいときこそ協力しあういい学校
・ ・ 信頼感は友達から協力は自分から  
・ 今必要なのは信頼と協力!
・ ・信頼できる仲間、協力し合える仲間に

 これらの中から支持が多かったのが網点で示した3つであり、特に「大事なのは信頼と協力」には過半数の22人の支持が集まった。でも何かもう少し改良が可能のように感じられたので、3次案を生かし次のような案を学年の先生方の協力も得てつくりだして付け加え、最終候補案とすることにした。
学年スローガン(第4次案最終候補案・4時)
1 大事なのは信頼と協力
2 何事にも信頼と協力
3 どんなことにも信頼と協力
4 互いに信頼みんなで協力
5 信頼と協力でガッツだぜ!
6 大切にしよう、信頼と協力
7 未来をつくる信頼と協力
8 信頼と協力で明日の扉を開こう
9 合い言葉は信頼と協力
10 いつも心に信頼と協力
11 必要なのは信頼と協力
12 なんでも協力互いに信頼
13 広げよう信頼と協力の輪
印刷配布し、じっくりと読んで判断できるように時間を取り、一人2票持ちで挙手で意志を表示させた。すると、4の「互いに信頼みんなで協力」が圧倒的に一挙に27票を一度
目に獲得した。長い協議の道程のあと、みんなが納得できる意志決定を見たわけである。
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⑸ 考察
 生徒の感想の一部を次に紹介する。
・自分たちにぴったり。決めるのに時間がかかったが、その分いいメッセージができた。・卒業まで2年あるけれど、その間にこのメッセージを実現できるようにしたい。
・何回もみんなで考えて決めただけあって、とってもいいメッセージになったと思う。
・みんなのいい目標になると思う。私もこれから達成できるようにがんばりたい。
・いいメッセージだと思う。けっこう気に入っている。

 生徒の自己決定を尊重し、思いや願いの適切な表現を支援することを心がけ、話し合い時間を十分にとった。そのことで、生徒自身の、生徒自身による、生徒のためのスローガンがつくりだされたと考える。

4 第3段階
  ⑴ 題材 「大きな文字を書く」
  ⑵ 目標 「学年メッセージを大きく拡大してレタリングし、視覚効果を考えて、美し       く彩色する」
  ⑶ 題材設定の理由
   この段階では、大きなサイズにレタリングするという造形的な課題がはっきりとし  ている。そこで、レタリング練習をし、その練習を生かして大きな文字を書く、というプロセスを最初設定したが、時間的な制約もあり、サイン業のプロの方がやられて  いると同じOHPを利用する方法をとることにした。書体はゴシック体とし、彩色は一学期の色彩学習を生かしてグラデーションということでまとまった。また、メッセージの文字が11個なので学年43名を11のグループに分けて担当することにした。

⑷課題構成 (3時)
 課題1 TPシートにレタリング辞典からメッセージの文字を焼き付け、OHPで60センチ四方に拡大し文字の型紙として書き写す。
 課題2 拡大された文字を型紙としてはさみで切る。
 課題3 大画用紙に型紙を当てて文字の形を写し書きする。
 課題4 メッセージの11個の文字数にグラデーションの配色をし、グループで協力し彩色する。(完成)
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⑸ 考察
 文字数と10M画用紙の大きさから、一つ一つの文字は60センチ四方のサイズが最適と計算さた。大文字のレタリングは文字の手本に方眼を引いて座標変換の方法で拡大させると手間取ると予想されたので、簡便なOHP利用の方法を取ったわけである。しかし11回もグループごとに転写作業をしなければならなく、1時間以上もかかった。その間、拡大作業外の生徒はレタリング練習に取り組ませた。
 課題1~3で2時間かかった。課題4で1時間。課題4は1時間で楽にできた。彩色作業が終わって、学年の共同作品の完成を見て、記念写真を撮影した。その時の生徒の明るい表情や、自然なしぐさから出たVサインのポーズなどが、一つの達成の喜びとして見て取れて安堵した次第である。

5 おわりに
 生徒の感想を紹介する。今回の学習を通して、指導の目標はほぼ達成されたと考える。

・時間がかかったけど、すばらしい作品ができてほっとした。
・いろいろ大変だったけど、たのしかった。
・たのしく、みんな協力してできたのでよかったです。
・少しふざけていた人もいたようだけど、楽しくつくることができてよかった。これからいつもこのスローガンを心に留めておきたいと思う。
・みんなで協力してできた。最後まで楽しんでやれた。学年全員で一つのものがつくれてみんなが一つのものを完成させるためにいろいろと協力できて、協力することがとても大切だと思った。
・とにかくA、Bみんなで協力できたことがなによりだと思う。みんなで協力して一つの大きな作品を完成させたということがとてもよかった。
・やることすべてが初めての経験だったので、出来上がりが少し心配だったけど、よくできたと思います。木版画をやめて私たちの意見をとりいれてくれた先生に感謝したいです。ありがとうございます。
・レタリングは難しかったけれど、色ぬりが面白かったです。大きい紙にかくのもいいなと思った。
・今までと違う美術ということでおもうぞんぶん楽しめたと思う。ストレスかいしょうにもなったし、学年みんなで一つの作品ができたのでまんぞくした。みんなの心が一つになったみたいだった。
・あんな大きな紙に絵をかくのははじめてで、ドキドキしたけど自分たちの個性がでていていいと思う。
・やっぱりみんなで協力しあってできた作品だから、できたときうれしかった。
・みんなが一つになってやったと思う。ストレスかいしょうにもなったし、すごくすごく楽しかた。
・みんなで協力してきちんとできたと思います。みんなの思いが作品によくあらわれていると思う。
・こんかいはみんなで協力できたと思う。美術の時間だけでなく、ほかの時間にも学年メッセージ「互いに信頼みんなで協力」したいです。

 男子の生徒の感想は短いことばが多く、ふざけて取り組んだことを反省することばも多くみられたが、取り組みの実態は本当に真剣に取り組んでくれていた。女子は、活動の過程で感じたこと素直に感動こめて書き記してくれたように思う。
 本題材を終了して、体育館に展示を終え、学校生活に生きるスローガンとして学年を越えて全校生徒に影響を及ぼしてくれることを願うのみであった。また、今後2年以上の継続掲示とその活用について全職員にも理解を求めた次第である。
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 本題材は、生徒の表現活動の実際や感想のことばより推察して、かなり高いレベルで一人一人にさわやかな思いを残せたと思う。新学力観にふさわしい生徒の思いや願いの実現のある指導の工夫としてはほぼ成功であったと評価している。
 筆者の本音としては「新しい学力観」ということばを、まだ豊かな指導経験をもって使うことができない。本年度、2年ぶりに美術を担当し、本題材などを通して、新しい学力観をベースにした指導法を工夫してみて得られたものは大きい。
 生徒のよさや可能性を信じ、その思いや願いを実現させることは、生徒の第一次的な反応や実態をそのまま認めることではない。生徒を信じて、より高いレベルを求めて働きかける知的な格闘が大切である。今回は、学年スローガンを決める過程で生徒の主体的な判断をどう引き出すかが一つの勝負であった。また、モダンテクニックの造形性の奥深さを確かにとらえた自由さのある追究過程が生徒
の感性の啓発に有効であった。
 今回の学習でモダンテクニックを楽しんでいる場面が、ほんの1分くらいではあるが全国放映された。その後の展開で確かな共同作品に結実させることができ、そのことの責任も果たせたのではないかと思っている。
今後も、生徒の感性、興味・関心を惹き付ける魅力ある題材開発や指導の工夫を心がけその思いや願いに応えていきたい。
(M中 平成7年度研究紀要所収)


題材7 自立的鑑賞活動

自立的鑑賞活動のあり方を考える

1 はじめに
 鑑賞活動は表現活動に内在するものと自立した活動として純粋に作品や対象を味わうことの二つに大別される。造形教育で鑑賞の自立が強調されてきたのは最近のことと言える。
2 鑑賞への想い
 私自身が鑑賞活動の重要性を改めて意識したのは昭和54~55年に文部省の教育課程研究の指定を受け て、指導法の工夫の一環として教室掲示などの環境構成に留意してからである。しかし、主として表現のための鑑賞であり、制作中心の授業が続いた。鑑賞の対象は自校の生徒作品や他校から借りてきた参考作品がほとんどだった。また、写生大会の場所やデザイン題材に関わって自然の形や風物の自作スライド化に意欲を燃やしたこともあった。
 その内に(15年前頃)ビデオが普及してきた。そこで、これからはビデオで鑑賞の充実をめざそうと大金をはたいて、βマックスのビデオを揃えて、生徒に見せることを楽しみに、一生懸命NHKの日曜美術館を中心に録画した。当時、各学校にもβ方式の機器が沢山導入されていた。約3年間で100本くらいのコレクションになった頃、β方式はVHSとの争いに破れて市場での勢いを失っていった。しまった。その後数年で学校のビデオからβ方式は私の、ビデオによる鑑賞の充実は、機種の消滅という思いもかけぬ障害に加えて著作権の問題にも打ちあたって、貴重な録画コレクションは残したが充分な教育実践はできなかった。
 その後、指導要領の改訂があったり、私の所属する上越美術教育連盟とアメリカ・インディアナ州の美術教育連盟との交流により、美学(審美)美術批評、美術史、作品制作を貫くDBAEの理念について学ぶ機会を得、自立的な鑑賞について考えさせられた。また、'90年には上越教育大学に交換教授と して来られていたイギリスのメイソン教授との交流で多文化教育の必要性、とりわけ「育てる鑑賞力」の大切さを教えていただいた。
 そのような歩みの後、一昨年、昨年と、第20回新潟県美術教育研究大会の研究を担当する機会を得て、研究の柱として「鑑賞教育のより一層の充実」を掲げることとなり、小中の公開授業の半数を鑑賞指導で実施したわけである。
 そして今年になって唐突に、私が取り組み始めているのは、インターネットによる鑑賞である。まだインターネット初心者で受信が中心だが発信できるように努力中である。
3 鑑賞活動の意義について
 鑑賞活動は、作品などの対象を見る、視る、観る触ることにより、それを享受するとともに造形的言語、視覚言語の語彙や文法、象徴的意味などを感受していくという大きな広がりをもっている。
 見るの他に視る、観ると書いたが見ることは単に網膜的なことではなく視覚を契機として記憶や知識を働かせる総合作用である。見て、触れて、空間を感じて、それを束ねて対象・世界を認識するわけである。また、視覚に写るもの全てを見ているわけではなく、関心を向けているものを中心に見ているのである。
 今、子供たちは消費型社会や情報化、国際化社会の中で、過剰な映像や情報に囲まれている。その反面、直接体験が不足し心の貧困化が問題となっている。つまり、多様な時代の価値観の渦中で主体的にものを見る確かな力の育成が要求されている。
 また、近年、全国各地に美術館が設置されてきて子供にとって本物に触れる美術鑑賞の場が増えてきていることから、自立的鑑賞活動としての作品享受力や作品理解力、作品批評力の育成が求められているわけである。造形教育は鑑賞力・人間的真実や美しさを直観的に見抜く審美的感性や多様な表現や造形美に対する批評力、異なる文化を理解享受する力をどう培うかという今日的課題を突き付けられているのである。このような考察から、表現活動に従属するものばかりでなく自立した鑑賞活動の充実を求めていかなければならないと考えるわけである。
4 実践について
 鑑賞活動の充実めざして、日々の学習と関わらせた教室掲示の工夫の他、中頸城郡吉川中では渡り廊下のスペースを「吉中ギャラリー」とした。表現活動と強く関わらせる作品展示や地域の作家の協力による版画コレクション展や生徒の個展、私自身のミニ個展などで美術への興味・関心を引き出すことができたと評価している。続いて跡付ける形のものも含め自立した鑑賞活動の実践を2つ紹介する。実践の視点は「本物に直接ふれる体験的鑑賞活動の推進」である。
⑴アパルトヘイト否!国際美術展吉川展の開催
 8年前(1988年)の9月8日こと、まだ南アフリカのマンデラさんは獄中にあった。アートディレクターの北川フラム氏のプロモートで全国巡回した本展を吉川中の体育館に招致した。午前9時40分より展示作業を開始し、11時開場、午後5時搬出開始という過密なスケジュールを3学年91名の生徒と共にまさに体験した。
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観客は、町内の小、高、町民も含め約1000人。展覧会の招致について、企画、運営、実務等全てを経験して、上司、同僚や地域の理解、協力がありがたかった。世界を代表する沢山の作家の作品をより身近に感じることのできたことは生徒はもとより私自身にとっても貴重な体験だった。
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⑵「インド・ミティーラ民俗画展」の鑑賞
 昨年の東頸城郡松代中での実践である。隣の十日町市にあるミティーラ美術館の全国的な巡回展で、町の地域振興課が文化事業として開催してくれた展覧会である。当美術館の設立当初の事情も私自身よく理解しており、授業としてきちんと位置付けて鑑賞した。全学年173名で2時間、7月6日に実施した。
 題材の目標は「インドのミティラーの異文化美術にふれて自分のものの見方、感じ方を広げる。」
支援のポイントとしては、町の振興課からいただいたヒンディー語の挨拶ことばを記載し、簡単な模写と感想を課題とした鑑賞カードを持たせた。細かい観点は設けず、異文化体験、国際交流の気持ちを大切に素直に鑑賞 させた。美術部は制作実演のシャンティさんからミティラー画の実習をさせていただけるようお願いした。
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 町の文化祭以外では本格的な展覧会は珍しく数年に一度の絶好の美術鑑賞の機会であった。「ナマステ=こんにちは」と話しかけて笑顔で応えていただいたり、作画実習で身振り手振りで教えていただいた体験。下書きもなく自在に竹ペンを駆使して描きだす妙味に心を動かされた感想が多かった。
5 おわりに
 以上2つのような例は、毎年確実に実施できるものではない。このような鑑賞の機会があれば指導計画を組み替えもやぶさかでないということである。美術科経営に問題が回帰してくるが、日常的には美術教室はもちろん校舎空間のギャラリー化を積極的に推進していくことが大切である。
 その他、小さな工夫であるが、私は、生徒に美術を意識させるため、指導の際の服装でネクタイに気を配っている。輸入もののゴッホやピカソ、ミロ、カンジンスキーなどの作品のネクタイやデザインの面白さを感じさせるものの着用を心がけている。また、テストの問題には必ず、教科書図版の作者名や指定図版の鑑賞作文を出題し、作者名を覚えさせ造形的語彙力を増やすような配慮をしている。
最初にふれたインターネットは、個人として5月に始めたばかりである。ルーブルやニューヨーク近代美術館、日本では大原美術館などのページを開いてみている。ルーブルでは額縁付きのモナリザが意外とリアリティをもって迫ってくるのに驚いた。学校がインターネットにつながる日が楽しみである。 ( 開隆堂 1996年-通巻354号掲載。一部省略)


題材6 全紙サイズで伸び伸びとポスター表現

全紙サイズで伸び伸びとポスター表現

(1)題材名「大きなポスター」(2年)
(2)目標 
 身の回りにある好きなキャラクターを利用し、自分の訴えたいことをポスターとして全紙サイズに自由に表現する。
(3)指導過程(6時間の課題構成)
課題1 
自分の好きなキャラクターを雑誌や漫画などの中から選び出し、訴えることばの構想を練る。
(1時)
課題2 
 訴えることばの文字の適切な配置を考えながら絵柄のキャラクターを全紙に大きく描き表す。
(1時)
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課題3 
 訴えることばを決め、絵柄との調和を求めてレタリングする。(2時)
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課題4 
 思いのままの彩色をほどこし作品を完成させる。(2時)
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課題5 
 作品を教室や校舎の適切な場所に貼り、実際に学校生活に生かし表現効果を検証する。
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(4)指導のポイント
 どのようなキャラクターを選ぼうと自由にさせる。ただし、作品として表現する内容は前向きのものとさせる。
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(5)指導を終えて
 全紙サイズの作品に取り組むのは初めての機会で、最初はとまどっていたが、大きく描くことの快感が伝わり、かえって意欲的に取り組んでくれた。制作場所は美術教室にはおさまらず廊下にはみだすなど数箇所に分かれた。その意味でも、通常の授業と違った解放感を感じて伸び伸びと制作してくれたようであった。
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(6)おわりに
 この2つ題材開発のコンセプトはいわばポップアートにある。さまざまな情報の渦中に生きている生徒の感覚をそのまま認めることから出発した題材である。
 題材開発の観点は先付けとして措定できるものが沢山あるが、あまり難しく考えると試みることもできない。失敗を恐れず大担に試みて、生徒の反応に学んで修正していく柔軟さが大切に思う。
 私は、生徒の気持になって「やってみたい。楽しそうだ。面白そうだ」という感覚を大事に題材開発をしてきているようである。また、言うまでもないことだが生徒が生き生きとして表現に取り組んだかどうかが勝負であると考えている。
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(J中で実践)


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